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とある天狗と毘沙門天

と言う訳で、久々にSS。
天魔様は他勢力と仲が良かったり悪かったり。














「―――では、行きますよ若様」
「なあ椛・・・・・・その若様と言うのは止めて貰えないか」


とある日の昼下がり。
僕は店の裏手の、天魔の張った結界の中で椛と剣を向け合っていた。
しばらくは彼女が僕の指南役と言う事になるらしいが―――


「そもそも、何故若様なんだい」
「貴方はいずれ天魔様と共に妖怪の山を背負って立つお方ですので」
「いやいや、何でそんな事になってるんだ」


真面目にこちらに対して敬意を示してくる椛に辟易しながら、僕はじろりと背後を一瞥する。
案の定、そこにはニヤニヤと笑みを浮かべた天魔の姿があった。


「何のつもりだ、天魔?」
「いやいや、予想以上に出来そうだったモンでねぃ。どうせだから、うちと並び立つ場所を目指して貰おうかと」
「・・・・・・止してくれ、本気の君が相手では二合と持たない」


一度、本気になった天魔の一撃をあらゆる準備をした上で受けた事があるが、彼女の攻撃はあらゆる防御を圧倒して見せた。
かろうじて剣は手放さなかったものの、腕が痺れてそれ以上打ち合う所ではなかったのだ。


「カカカ、うちの一撃を受け止められただけでも下っ端の天狗なんぞとは訳が違うよん。
お前さんは、確かにうちには能力も実力も遠く及ばない。けれど、その差を知恵で補っていく事はできる筈だ」
「君の場合は差が圧倒的過ぎるだろうに」


逆立ちした所で毛筋一本の傷も付けられまい。
先日の、あの草薙が起きた状態―――例えあの状態だったとしても、彼女には一太刀とて届かないだろう。

天魔は心底尊敬出来るだけの実力を持つ者だ。
その高みを、僕は決して軽視する事は出来ない。

その僕の思いを看破してか、天魔は小さく肩を竦めた。


「あのなぁ霖之助。お前はもうちょっと自分の実力を評価してもいいと思うよん?
椛は齢は重ねていないとは云え、九頭龍の力を持ってすれば大天狗に匹敵するだけの武力を持つ。
お前さんはそれをたった一人で下したんだ」
「様々な手を尽くした上でかろうじて手に入れた勝利だがね」
「それでも勝利は勝利だよん。圧倒的な差を、お前はその知恵で埋めた」


・・・・・・それは相性の差であって、天魔を相手にするのとは訳が違うのだが。
しかし、僕が実際に遥か格上の相手を下したのは事実だ。


「・・・・・・だが、君との差を埋める策など一つとして思い浮かばないが?」
「今はそれでいいさね。経験を積めば、それだけ差を埋める手段は思い浮かぶだろうからねぃ」


確かに、僕もまだまだ若輩者か。
ならば精々精進せねばなるまいと、僕は再び椛に向き直った。


「では、改めまして。行きますよ、若様」
「・・・・・・話題を逸らしていたな、天魔」
「はてさて何の事やら―――おん?」


すっかり騙されかけていた―――断じて騙された訳ではない―――事に気付き、再び天魔の方に視線を向けると、
彼女は何やらぴくりと顔を上げた所だった。
その視線の中には、どこか鋭い物が混じっている。


「・・・・・・天魔?」
「何者かがうちの結界に侵入してきたねぃ」


―――思わず、僕は耳を疑った。
天魔の結界は、彼女の持つ陣羽織―――《天狗の隠れ蓑》による物だ。
その力は椛の千里眼すらも欺き、かの八雲紫ですら本気で探さねば見つからないと言う。

それを、一体どうやって見つけたと言うのか。


「この気配・・・・・・ふむん、ちょいと面倒なのが出てきたねぃ」
「天魔様、お下がり下さい」


天魔の言葉を受け、椛が僕らの前に出て警戒の姿勢を取る。
その目には既に侵入者の姿が見えているのか、椛は一点を睨んだまま微動だにしない。

一体、何がいると言うのか―――ん?


「何やら大層な結界に篭っているかと思えば・・・・・・やっぱり、あの時のは見間違いじゃなかったようだね」
「・・・・・・ナズーリン?」


そう、彼女はかの宝船の騒動の時に、香霖堂で宝塔を購入していった鼠の妖怪だった。
以後商売相手として時々顔を合わせているが、何故彼女がここに?

それにどうやって―――


「おやおや。久しぶりだねぃ、十二神将。相変わらず嗅ぎ回るのは得意なようで」
「私をその役に導くのは少々暴論と言うものじゃないかな、第六天魔王。
そう言い出したら君は大黒天とも同一視されているだろう」
「カカカ。なら鼠らしく、大国主でも導いていたらどうかなん?」
「生憎とその男に息子はいないようだがね」


・・・・・・何とも、仏教と日本神話に喧嘩を売った様な話が聞こえた気がする。
確かに、大黒天とはヒンドゥー教のシヴァ神が化身、マハーカーラを指すとされている。
天魔とシヴァは同一視されている以上、そことも繋がっているとも言えるが―――


「・・・・・・密教と仏教と神道を混合しないでくれないか。流石に互いに暴論だろう」


本来の大黒天はマハーカーラを元とした密教の神だ。
そこから派生して仏教の天部に属する神である大黒天が生まれ、
また大国主命と神仏習合して出来た神道の神たる七福神の一柱の大黒天が生まれたのだ。
まあ、大分間接的ではあるが、一応モチーフにされている以上は同一に近いのかもしれないが。

しかし流石に、天叢雲剣の持ち主スサノオの、その息子たる大国主命を導いたとされる鼠の話は遠すぎるだろう。


「まあ確かに、こういう言い合いは詮無い事かな」
「仏教関係である以上、知っていてもおかしくはないかと思ったが・・・・・・また随分と仲が悪いようだね」
「口を挟まないで貰えるかな、霖之助君」


呟き、鼠の妖怪はこちらをじろりと睨み据える。
どうやら、本気で仲が悪いようだ。


「カカ、こいつはうちが大黒天と同一視されてる事が気に喰わないんだよん」
「どういう事だい?」
「どうもこうも、うちがこいつの主と一緒に宝船に乗ってるとされてるのが気に喰わないのさね」


ナズーリンの主と来たか。
その言葉が更に気に食わなかったのか、彼女は天魔の方へ鋭い視線を向けている。
しかし、宝船か。先程大黒天の話があったと言う事は、この間の騒動ではなく七福神の乗る宝船の事だろう。
彼女の主は七福神の一人と言う事か?

そういえば、あの宝塔・・・・・・そして十二神将と来た。つまり―――


「毘沙門天か」
「っ―――!」
「おお、さすが霖之助! 知識量はあるねぃ」
「お見事です、若様」
「だからそれは止めてくれ、椛」


椛の言葉に嘆息を漏らしつつ、僕は再び思考を巡らせた。
まあ、あまり深く考える必要もないだろうが。
天魔は仏敵であり、毘沙門天と同格とされるのは腹が立つのだろう。

魔法を使う為に溜め込んだ知識ではあるが、どこで役に立つかは分からないものだ。
尤も、魔法の為に役立っているかどうかと聞かれるとそれは疑問―――と言うよりも役立ってはいないのだが。
素早く呪を作り上げる事が出来ない以上、結局は下手の横好きにしかならない。

・・・・・・いや、そういえばヒンドゥー教において、毘沙門天の元となったクベーラと言えば―――


「・・・・・・天魔。君と毘沙門天は―――」
「ああ、割と親しいよん。たまに会ったら酒を酌み交わす位には友達かなん」
「勝手な事を言うな!」


ああ、やはりか。
ヒンドゥー教において、シヴァとクベーラは親しいとされている。
要するに、親しくされているのが気に喰わないのだろう。


「うちの友好関係にまでケチ付けられても困るんだけどねぃ」
「まあ、それは―――」


神々の事情と言う奴だ、この世に生きる僕たちには到底理解の及ばない領域の話だろう。

元々は財宝神と呼ばれた毘沙門天だが、良ければ今度紹介して貰いたい所だ。
・・・・・・いや、流石に畏れ多いか。流石に僕とてそんな存在を前に冷静でいられるとは思えない。


「っ・・・・・・まあいい。今回用があるのは私じゃないからね」
「おん?」


ぴくりと、天魔は眉を上げる。
そして同時に気配を感じ取ったのか、彼女はナズーリンの更に向こうへと視線を向けた。
それとほぼ同時、結界を抜けて一人の妖怪が姿を現す。
左手には宝塔を、右手には槍を持った妖怪―――


「ほぅ・・・・・・」


天魔は、そう小さく呟く。
口元に浮かべている笑みを見る限り、どうやら随分と楽しんでいるようだ。
まあ、彼女が楽しまない状況と言うのも想像が付かないが。

ともあれ、今はそれよりも現れた妖怪の方だ。
その姿、というよりその持物は、僕の知る毘沙門天の姿に近い。
だが、感じる力は明らかに妖怪の物。妖怪も神も近い存在とは言え、流石に彼女が本物の神だとは思えない。

まあ、身近に神に名を連ねながらも妖怪然とした存在を知ってはいるのだが。


「・・・・・・君は?」
「初めまして、店主殿。私は命蓮寺が毘沙門天代理、寅丸星と申します。
以前は、我が宝塔を拾って頂き誠にありがとうございます」
「ああ・・・・・・成程、それは君の物だった訳か」


その左手にある宝塔は、確かに以前僕が拾ったものだ。
成程、毘沙門天の代理と来たか。つまり、彼女は命蓮寺における『生きた本尊』と言う事だ。
ふむ。しかし、そんな存在が訪れるほどに香霖堂は有名になったと言う事か。


「ぷふっ」
「・・・・・・天魔」


何やら吹き出した天魔をじろりと睨むと、彼女は同時に明後日の方向に視線を逸らした。
嘆息しつつ、僕は寅丸と名乗った妖怪に向き直る。


「それで、今回はこの香霖堂にどのようなご用件で?」
「ええ、今回はこの間のお礼と―――彼女と少々話が」


そう言うと、彼女は天魔の方に視線を向けた。
若干鋭さを増したその視線に、天魔はにやりとした笑みを深める。


「うちに話と来たか。それで、どんな話なのかなん?」
「単刀直入に申し上げます。彼と関わるのを止めて頂きたい」


―――瞬間、空気が凍りついたかのような錯覚を覚えた。
椛は表情を凍らせて太刀を構え、薄紅色だった瞳を血の様な紅に変色させる。
そしてその視線を遮るように、ロッドを持ったナズーリンが前に出て軽く構えた。

そして天魔は、その笑みをますます深める。
彼女の感情は上手く隠されていて読めないが・・・・・・それでも、普段通りと行かない事は確かだ。


「ほぉ・・・・・・一応聞いておいてやるが、それはどういう意味かなん?」
「彼を貴方の能力で操る事を止めなさい、と言っているのです」


ああ・・・・・・成程、そういう事か。
何処で見ていたのかは知らないが、彼女達は僕が天魔の能力によって干渉されている事を知っていたのだ。


「彼は人間とも妖怪とも平等に接する、我らの理想を体現したお方です。
しかし貴方の力を受ければ、それは容易くどちらかに傾いてしまうでしょう。
そして、貴方は彼を妖怪の側に引き入れるとも言っていた」
「ちょっと待ってくれ」


堪らず、僕は口を挟んだ。
天魔が僕を彼女と対等な存在にしようとしている事は先程のやり取りで分かっている。
実際にそこまで行けるとは到底思えないが、それでも彼女との修行を止めるつもりはない。
これは、僕自身の意思なのだ。


「僕は、自分の意志で彼女からの干渉を望んだんだ。それに関して彼女に責は―――」
「貴方は精神に干渉する能力の恐ろしさを知らないのです、店主殿。
その貴方の考えすら、操られた結果生まれたものなのかもしれないのですよ」
「な―――」


寅丸が言い放った言葉に、僕は首を横に振っていた。
確かに、それも一理あるのだろう。
だが、僕は天魔を知っている。

彼女は―――


「クッ、ハハハハハハハ・・・・・・!」
「・・・・・・何が可笑しいのです」
「カカ・・・・・・見くびられたものだな、小娘ッ!」


―――彼女は決して、僕を蔑ろにするような力の使い方をしない。
珍しく怒気を露にした天魔は、その手の錫杖を水平に持ち、石突の辺りの部分を右手で捻った。
かきん、という音と共に錫杖から仕込み刀・・・・・・一振りの直刀が抜き放たれる。


「貴様等がオレを敵視するのは勝手だ。仏の教えとやらに勝手に従っていればいい。
だが、貴様はオレと我が友の絆を侮辱した・・・・・・それはこの男と貴様らの主たる毘沙門天への侮辱と知れ!」
「ッ、待て天魔―――!」


僕の制止と伸ばした手も虚しく、天魔はその怒気を纏って寅丸へと一直線に駆けた。
振り下ろされた刃が相手の持つ槍に衝突し、地面の砕ける轟音が響く。

拙い、あれは本気か!
荒れ狂う風を纏う天魔には、僕では到底近づく事は叶わない。


「椛、天魔を―――」
「私にそれが可能だと思いますか?」


そう返してきた椛の言葉に、僕は思わず言葉を失っていた。
その言葉の端には怒りが、命蓮寺の者達に対する憤怒が見え隠れする。

そうだ、椛は天魔の言葉を第一に行動する・・・・・・椛自身が納得している以上、天魔を止める筈がない。
それにそもそも、九頭龍の力を持っていた所であれを止められるのだろうか。


「それに、どうやら控えていたのはあれだけではないようです」
「何?」


言うが早いか、天魔は結界を解きつつ横薙ぎに刃を寅丸へ叩きつけようとする。
―――その瞬間、そこに巨大な何かが降り注いだ。

あれは・・・・・・錨と拳?


「星!」
「そこから離れろ!」


声の響いた方を見上げると、そこにいたのは水兵服の少女と尼僧服の少女の二人。
彼女達が放った攻撃は天魔に直撃し・・・・・・いや、あれは。


「・・・・・・揃いも揃って、邪魔な連中だ」


天魔は、剣の切っ先と錫杖の先端で二つの攻撃を受け止めていた。
その声からは普段のふざけた調子が消え、歴戦の武人としての闘気を迸らせている。

しかし、これは拙い。天魔がではなく、彼女達がだ。
彼女たちのまとめ役であるかの住職、大魔法使い聖白蓮がいたのならばまだしも、
ただの妖怪である彼女達に天魔を止める事は不可能だろう。
天魔は天狗達の頭領であると同時に、様々な神と同一の存在とされる大妖怪なのだ。


「椛」
「はっ!」
「霖之助と共に身を護っていろ」
「御意!」
「っ、天魔!」


彼女の気持ちは分からないではない。
僕とて、天魔との絆を否定されたのは少々腹に据えかねている。
だが彼女達には魔理沙も世話になっているし、人や妖怪からの信仰も厚い彼女達を傷つけるのは天魔の立場を危うくする。


(それを見逃す訳には―――!)


だが、彼女を止めようとして伸ばした手は、弾き飛ばされた錨によって遮られた。
咄嗟に足を止めた時にはもう遅く、僕の周囲は渦をまく水の龍によって取り囲まれていたのだ。


「椛!」
「申し訳ありません・・・・・・それに、もう外に出るのは危険です」
「くっ!」


その椛の言葉に答えるように、水の向こう側から天魔の凛とした声が響く。


「禍焔『比叡山焼き討ち』!」


天魔がそう叫ぶと共に、地面から無数の妖弾が飛び出し、周囲を取り囲むように配置された。
そして―――渦を巻くように、妖弾達は炎を上げながら中心へと向かって行く。


「ご安心下さい、若様。店は私が保護しています」
「あ、ああ・・・・・・だが、天魔は」
「大丈夫です」


落ち着かずに身を揺らし、水の向こう側に目を凝らしていた僕に、椛は何故か落ち着いた表情で声を上げた。


「天魔様は落ち着いておられますよ」
「・・・・・・あれでかい?」
「ええ。本気で怒っていたのなら、私の防御など易々と貫いてしまいますから。それはつまり―――」
「彼女達にも防御出来るようにしている、という事かい?」


そう言えば、確かに天魔は最初の一撃で正直に真正面から剣を振り下ろしていた。
斬る気ならば、途中で横薙ぎの一撃に変化させていた筈だ。
天魔の持つ武の業は、人間の常識どころか妖怪の常識をも超越する。

刃を振るう天魔の姿を思い浮かべていた次の瞬間、外で大きく紅い色が弾けるのが見えた。
天魔の頭上に収束して行った炎の弾幕が、一斉に周囲に弾け飛んだのだ。
設置、収束、拡散の三段階の弾幕―――とてもじゃないが、僕では攻略の糸口が見つけられそうにない。

・・・・・・霊夢や魔理沙なら、あっさりと見つけてしまうのかもしれないな。
霊夢達が言うには、弾幕には大抵何通りかのパターンがあるとの事だった。
つまり、スペルカードルールは経験がモノを言うという事なのだろう。

紅色が過ぎ去ると共に、水の龍は姿を消す。
見えてきたのは、雲に身を包んだ入道使いの少女と、周囲に大量の錨を浮かべた船幽霊。
両者とも、肩で息をしている有様だ。

そして地上には、宝塔を掲げた寅丸と、その背後に隠れるナズーリンの姿。
宝塔を使って防御したと言う事なのだろう。
そして、天魔は―――今まさに、彼女に向けて刃を振り下ろそうとしている所だった。


「―――ッ!」


椛が言うには、あれは本気ではないとの事だ。
だが、この一瞬の間では、僕にはそれを判別する事は出来ない。
目を逸らす間もなく、天魔の刃は寅丸の頭上に・・・・・・っ!?


「お久しぶりでございます、他化自在天様」
「・・・・・・お前さんか」


天魔と寅丸の間に、一人の人影が一瞬で割り込んでいた。
そこにいたのは、命蓮寺の住職たる聖白蓮。
天魔の刃の前に、腕を広げるでもなく受け止めようとするでもなく、ましてや反撃しようとするでもなく。
彼女はただそこに立ちながら、ゆったりとした笑みを浮かべていた。
一見しただけであるが、恐ろしいほどの胆力だ。


「お前さんじゃなかったら振り下ろしていたよ」
「ご冗談を・・・・・・本気でなかった事は分かっておりますよ」


天魔はその言葉に苦笑すると、くるりと刃を戻して錫杖と言う鞘に納めた。
しかし、あの刃は一体どんな物なのだろうか。
仕込み刀と言うのは奇襲に用いられる物であり、得てして強度に難があるものだ。
だが天魔の刃は折れるどころか傷一つついた様子は無い。何か特別な道具なのだろう。
一度見せてもらいたいものだ―――


「聖、下がって! 彼女は―――」
「それ以上言ってはいけませんよ、星。今回の事は貴方達に非があります」


おや、と思わず小さく呟いてしまう。
非を認めると言う事は、この幻想郷の妖怪達にとっては非常に珍しい行為だ。
僕の周りに限って言えば、妖怪に限らずであるが。

僕の考えをよそに、彼女達の話しは進んでいく。


「し、しかし彼女は!」
「他化自在天様は、確かに仏の敵と言われているお方でもあります。
それは、修行中の僧達を欲の魔導に引き込もうとする為。
しかし、それを乗り越えねば悟りへの道は開かれぬ・・・・・・あの方は、我らに修行を課して下さっているのです」


成程、日蓮の説く言葉か。
日蓮の曼荼羅には第六天の魔王についての内容が含まれている。
彼が説くには、天魔の誘惑は信心の邪魔をするが、それを乗り越える事ができれば更なる功徳を積む事が出来ると言う。

彼女の言葉に、天魔はくつくつと笑って見せた。


「お前さんの事はよく覚えているよ、聖白蓮。
まさか僧たる者が、うちの誘惑を別の欲望によって乗り越えるとは思いもしなかった」
「お恥ずかしい限りです」
「いんや、それが正解なんだよん。お前さんにとって必要だったのは、より強い信念の筈だ。
ならば、それもまた一つの答えと言う事だ」
「貴方様にそう言って頂けるのであれば、私も自信が持てますね」


僧侶は控え目な笑みを浮かべる。
天魔の誘惑を耐え切った者・・・・・・彼女の力に甘えている僕とは、正反対の存在だろう。
そんな彼女は、僕の視線に気付くと、にこりと笑ってみせる。


「お会いするのは初めてですね、店主様。私は聖白蓮。
不肖の身ながら、命蓮寺の住職を務めさせて頂いております」
「これは丁寧に・・・・・・僕は森近霖之助と言います。何か御用がありましたら、香霖堂にご相談下さい」
「ええ、それは是非とも。私の封印を解く一助となって頂いたのですから」


・・・・・・それはどういう事だろうか?
まあ、分からない事は気にしていても仕方ないだろうが。

彼女は、妖怪と人間の平等を説いているという。
大層な理想ではあるが、この幻想郷に限って言えば危険な思想であるだろう。
妖怪は人間に畏れられなくてはならない。その畏怖こそが妖怪を生み出しているのだから。

幻想郷は、スペルカードルールに従う事によって生まれた危ういバランスの上で成り立っている。
そのバランスを崩すような行為を、八雲紫が許すとは思えないのだが―――


「・・・・・・聖白蓮。お前さんは、この幻想郷で何を成す?」
「千年前と変わりません。ただ、人と妖怪の平等を」


天魔は、彼女に向けてそう問い掛ける。
その鋭い真っ直ぐな視線を向けられ、聖白蓮は姿勢を正す。


「成し遂げられると思っているのか?」
「成し遂げますとも。例え、我が寺の境内の中だけでも。老人の道楽と嗤って下さいませ。
私はただ、妖怪の子供と人間の子供が共に遊んでいる光景を見てみたいだけなのです」
「誰にも理解されぬ道かもしれぬぞ?」
「承知しております。けれど、それを成し遂げた光景があるのなら私も目指しましょう」


そう言うと、彼女は僕の方に視線を向け、小さく微笑んだ。


「店主様のお店には、昼も夜も、人間も妖怪も無いと聞きます。
魔理沙ちゃんも、店の中で妖怪と語り合った事があると言っていました。
そして店主様、貴方は例えどんな相手が客であろうと、その態度を変える事は無いとも」
「それは・・・・・・その通りですが」
「貴方の前では、人間も妖怪も等しく『客』なのでしょう。ならばそれは、私の理想と同じです」


そして、彼女は僕に向かって深々と頭を下げる。
あまりにも夢に向かって真っ直ぐなその姿勢に、僕は思わず圧倒されてしまった。


「ありがとうございます、店主様。貴方のおかげで、私は夢を諦めないでいられる」
「ああ、いや・・・・・・頭を上げてくれませんか。僕は大した事はしていない」
「ええ、そうなのでしょう。だからこそ、私は貴方を尊敬するのですよ」


満面の笑顔を浮かべる彼女に、僕は今度こそ言葉を失った。
参ったな、このような手合いは初めてだ。
そんな僕の様子に、天魔はくつくつと笑いを漏らしていた。


「ともあれ、今日は私の家族がご迷惑をおかけしました。後日お詫びに窺わせて頂きます」
「いえ、お構いなく・・・・・・」
「私がそうしたいのですから、遠慮なさらないで下さい。それでは、また後日。
さあ、貴方達も帰りましょう。ちゃんとあの方達にごめんなさいを言ってからね」


聖にそう促された妖怪達は、『聖が言うなら』と僕らに頭を下げてゆく。
また、大層な信頼のされ方だ。

だがそんな中で、ナズーリンだけは僕らに頭を下げた後、口元に笑みを浮かべながら踵を返していった。


「・・・・・・さすが賢将を名乗るだけはあるねぃ。狡賢いったら」
「どういう事ですか、天魔様?」


彼女達の背中を見送ってからやれやれと肩を竦めた天魔に、椛は小さく首を傾げる。
・・・・・・ああ、成程。そういう事か。


「彼女が君の事を嫌っているのは確かのようだね」
「全くさね。また面倒な方法を取ってくれた事だけど」
「・・・・・・どういう事なんです? ちょっと、お二人とも~」


ナズーリンは、天魔の邪魔をしたかったのだろう。
彼女は僕と言う『天魔が自分の側に引き込もうとしている存在』を見つけ、それを妨害しようと考えた。
その方法が、純粋な善意の塊をぶつけると言う事だったのだ。


「聖白蓮・・・・・・まったく、面白い奴だねぃ」


毘沙門天の奴も自慢する訳だ、と天魔は頭を掻きながら小さく笑う。
僕らに向かって疑問符を投げ掛けてくる椛に小さく苦笑しながら、僕もまた彼女の姿を思い浮かべていた。

彼女のお詫びの品はどんな物になるのかと、小さな期待を抱きながら。







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非公開コメント

No title

霖之助…言っとくけど、一合保った時点でばけもんだから…
それにしても、命蓮寺の連中まで来たか…そして、さすがはナズw
これからさらに面白くなりそうですね!

No title

どうも、サイモンディス。
なんだかややっこしいことになってきたねー。
ナズはナズで珍しく私欲的な感じが全開だし。
天魔さんはいろいろ本気だし霖之助は若様だし椛はかわいいし。
っていうか天魔さまの命蓮寺連からの嫌われっぷりがぱないですね。そんなに毘沙門天様と仲いいのが嫌か。方や白蓮さんはいつも通りだし。もうどうなんのこれ。
あ、それはそうと香霖堂購入おめでとうごzパルパル。

No title

白蓮さんが格好いいw
そういえば仏敵だから関係あるんですねぇ。

降ってきた錨の字が一瞬猫に見えてほのぼのとした図を思い描いてしまいましたw
ナズーリンはまさに策士。


あ、動画も見させていただきました。
小悪魔のフリーダムさに思わず吹いたw
あの立ち位置っていいよね!

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Allen

Author:Allen
動画を作ったりSS書いたりしてる創作生物です。
何か作ってないと生きていけません。

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