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とある天狗と九頭龍伝承

霖之助VS椛の続編。
今度こそ決着をつけます。
そして早苗さん大フィーバー。











「んー・・・・・・いい天気だねぃ」


布団から起き上がって背を伸ばした天魔は、外の景色を眺めながらそう呟いた。
場所は香霖堂―――昨晩、風呂場からそのままこの部屋へと雪崩れ込み、そのまま・・・・・・と言った所だ。
体に残る気だるさが逆に心地よく、天魔は小さく欠伸を噛み殺した。


「霖之助は・・・・・・もう起きてるみたいだねぃ。朝ごはんかなん」


日は高くなり始めた辺りで、朝と言うには少々遅い。
昨晩は山に戻らなかった為、今頃騒ぎになっているかもしれないが―――


「んー・・・・・・ま、大丈夫さね」


今現在山を仕切っているのは、実際には守矢の神だ。
それに、天魔がいなくなった程度で混乱するほど、天狗たちは天魔に依存している訳ではない。
かつてと比べると、信じられないほどの自由度の高さだ。
それほどまでに自由奔放にしていながらも、山の天狗達が彼女に付いて来るのは、偏に彼女の強さ故である。

最強の種族たる鬼に匹敵し、神々にも引けを取らない強さ―――


(・・・・・・ま、単純っちゃ単純だねぃ)


胸中で苦笑し、天魔は立ち上がった。
寝起きのもの特有の緩慢な動きで歩きながら、今へと続く襖を開ける。


「おん?」
「あら、やっと起き―――」


―――そこには、何故か森の人形遣いが座っていた。
何やら絶句した表情の彼女に向け、天魔は首を傾げる。


「アリスじゃないか。何でここにいるのかなん?」
「ふ、ふ・・・・・・」
「ふ?」


俯きながら一つの音を繰り返すアリスに再び首を傾げ、天魔は彼女に向けて一歩踏み出し―――


「服を着ろおおおおおおおおおッ!!」
「ひでぶっ!?」


―――振りあがった本の角を顎に受け、全裸の天魔は綺麗に卒倒したのだった。




















「いやぁ、ゴメンゴメン。普段の家と同じ感覚だったもんでねぃ」
「家でも服は着てなさい、頼むから」


ぶつぶつと文句を言うアリスと、まるで懲りていない天魔。
その二人を見つめ、僕は小さく肩を竦めた。


「そうなるんじゃないかとは思っていたが、君には恥じらいとかそういう物が・・・・・・最初から無かったな」
「はっはっは、褒めても何も出ないよん」
「褒めてないでしょ、断じて」


嘆息するアリスに釣られて、僕もまた溜め息を吐く。
体の不調も相まって、少々憂鬱な気分だ。
憂鬱と言えば、アリスの表情もまたそれに近い物だったが。

彼女は布を買う為にここに来ていたのだが、生憎と在庫を切らしている所だったのだ。
研究が滞る事を気にしているのだろうか。


「アリス、そんなに気にせずとも直ぐに入荷するよ」
「へ、え? 何が?」
「ん? いや、君は布を買いに来ていたのだろう?」


それとも、他にも何か欲しいものでもあったのだろうか。
しかしアリスは、僕の言葉に首を横に振った。


「ああ、いや・・・・・・ちょっと驚いただけよ。貴方達がそういう関係だったとはね」


貴方達、と言うのは、まず間違いなく僕と天魔の事だろう。
つい、と思わず視線を向けると―――天魔もまた、僕の方へと視線を向けた所だった。
思わず、苦笑する。


「まあ、確かにそう勘違いされてしまっても仕方ない事か」
「アリスは感覚が人間に近いからねぃ。ま、仕方ないさね」
「・・・・・・どういう事よ?」


訝しげに、アリスは顔を上げる。
疑うような目から少しだけ視線を外し、僕は声を上げた。


「僕と天魔は、君が思っているような関係ではないよ」
「え、でも・・・・・・」
「妖怪にとって、肉体の繋がりってもんはそこまで大事って訳でもないからだよん。
うちほどの長い命の種となると、種の保存としての本能も殆ど無いに近いからねぃ」


一説によれば、天魔の寿命は一万六千年あるという。
そういった本能が働かないのも頷けるだろう。

そも、妖怪とは精神を主な要素として抱える生き物だ。
肉体の繋がりと言うのは、それほど大きな意味を持っているという訳ではない。
無論の事、そこからより親密な思いの繋がりへと発展する事もあるだろうが―――


「妖怪にとっちゃ、言葉や婚姻のような契約といった物の方がよっぽど重い。
それは精神を、心を縛る物だからねぃ。それこそ、妖怪にとっては致命的な弱点を曝す事に等しい」
「まあ、僕と天魔は睦言を囁き合うような関係ではない。
繋がりは確かに大きいかもしれないが、逆に言えば身体を許せる程度の仲と言うだけだ」


まあ、一般的に言えば十分親密と言えるのかもしれないが。
確かに、僕らの『そういった未来』を想像できないと言う訳ではないのだ。
それが脳裏に浮かぶ程度には近いし、それが現実的に感じられない程度には遠いのだろう。


「ま、妖怪になって日が浅いのかもしれないけど・・・・・・その辺りは心得ておいた方がいいよん」
「・・・・・・勉強になった、と言った方がいいのかしらね、これ。正直、あんまり想像できないわ」
「それが若さ、と言った所かな」
「爺臭い言い方だねぃ」


からからと笑う天満に、僕も小さく苦笑する。
アリスはしばらく悩むように考え込んでいたが、やがて大きく溜め息をついた。


「まあ、分かったわよ。とりあえず、そういう物じゃないって事ね」
「もうちょっと年食えば分かるようになるよん。悩めや若人、と言った所だねぃ」
「・・・・・・普段からそういう態度なら、もうちょっと見直すんだけどね」


肩を竦めるアリスの言葉には、僕も胸中で同意しておく。
こんなやり取りでもなければ、彼女が積み上げた年月を実感できないのは、良い事なのか悪い事なのか。
まあ、僕としてはそれ以外にもそれを感じる瞬間はあるのだが。

しかし・・・・・・彼女は何故、突然あんな行為に及んだのか。
別段、いつも理由があって身体を重ねると言う訳ではないのだが、
風情を大事にする天魔にしては少々唐突に感じたのだ。


「で、霖之助。身体の方は・・・・・・やっぱ、治ってないかなん」
「うん?」


唐突にかけられた言葉に、僕は思わず首を傾げた。
確かに、身体は妙に不調である。胸の奥の方で蛇が蠢いているような、そんな不快感。
しかし、僕はそれを彼女に言った覚えは無いのだ。


「天魔、君はこれが何だか知っているのかい」
「何だかもなにも、原因なんて一つしか考え付かないよん」


言って、彼女は僕の背後を―――霧雨の剣を指し示す。
珍しく不快そうな表情で眉根を寄せた天魔は、溜め息交じりに言葉を吐き出した。


「途中で勝負を止めたのが悪かったみたいだねぃ。どうやら、そいつは決着を着けたがってるみたいだ。
何とか残留した力を吸い出せないかと試してみたけど、無駄だったみたいだよん」
「・・・・・・成程、そういう事か」


色々と納得が行った。
あの瞬間、僕は草薙によって身体を操られていた。
剣の力が、僕の中に入り込んでいたと言う事なのだろう。

剣は、九頭龍―――つまり椛と決着を着けたがっていた。
それを止められたが故に、剣は僕を急かしているのだ。

―――椛を斃せ、と。


「・・・・・・何よ、どういう事?」
「んー・・・・・・まあ、つまり」


ぴっと、天魔は指を立てる。
その顔に、小さく笑みを浮かべながら。


「戦う霖之助が見られる、って事かなん」




















水面の上に立ち、私は静かに目を閉じる。
耳に入ってくるのは、大量の水が落ちる音だけ。
暗闇の中の私は、現実とは違って波一つ無い水面に立っており、その鏡となった水面には―――


(・・・・・・満足していないか、私は)


紅い衣を纏い、身体に九つの大蛇を巻きつかせた私は、その瞳を闘志に燃やしている。
私は、椛で紅葉だ。彼女が感じる事は、私が感じる事と同じ。

天魔様の申し子、戸隠山の鬼女『紅葉』は、草薙の剣の使い手との再戦を望んでいる。


(そしてそれは、私も同じ)


鬼泪の九頭龍の感情も、確かにあっただろう。
あの時私を支配していたのは、かの九頭龍の古き怨嗟だった。
だが今『私/紅葉』は、それを捻じ伏せてしまった。

そしてその上で、私はもう一度彼と戦いたいのだ。


「それが・・・・・・天魔様の願いだから」


私は紅葉だったけれど、今は椛なのだ。
椛は、決して天魔様の隣に立つ事はできない。あの方を主と定めてしまったから。

だからせめて、紅葉がいた場所に・・・・・・天魔様が最も安らげる場所に、誰かがいて欲しい。
そして私の前に、ついにそこに居る事が出来るであろう男が現れたのだ。

―――だから、彼を押し上げる。その為に、全力で戦いたいのだ。


『相変わらずの忠犬っぷりだね』
「・・・・・・諏訪子様ですか」


聞こえた声に、目を開く。
それと同時、目の前の水面が盛り上がり、一つの姿を作り上げた。

―――守矢神社の神が一柱、洩矢諏訪子様。


「私に何か御用ですか? 天魔様は今山にはいらっしゃいませんが」
『そっちには神奈子の方が行ってるよ。今回はあんたに用があるって事さ』
「・・・・・・まさか」


天魔様が今いる場所は、まず間違いなくあの場所だろう。
そして、この方は私に話があるという。と言う事は、つまり―――


『この勝負、守矢神社で預かるよ』
「・・・・・・一体どんな風の吹き回しですか? どちらかと言えば、これは山の外の問題ですよ」
『あー、うちに乗り気なのが一人いてねぇ』


水の像なのでよく分からないが、その声にはどこか苦笑したような調子が含まれていた。
何かあったのだろうか?


『ま、その辺りは気にしなくてもいいよ。
あんたの中のもさ、神奈子がいたら滅多な事は出来ないでしょ?
格としちゃ、神奈子の方が上だろうからね』
「それは・・・・・・確かに」


あの方は蛇を象徴した神でもある。
私の内に在る九頭龍も、あの方の言葉には従わざるを得ない。
まあ、彼女達にとって重要な事はただ『楽しむ』と言う事なのだろうが。

その辺りは、天魔様とも似通っていると思う。
力ある者の余裕という事なのだろうか。

まあ、それはともかくとして。
店主殿と決着をつけるという事は、私としても望む所だ。
このまま自分の内に燻った竜を抱えているつもりは無い。


「・・・・・・分かりました。その話、お受けしましょう」
『そう言うと思ったよ。それじゃあ、今から神社に来る事。準備はこちらでしておくよ』


そういうと、諏訪子様の水像は形を失って水面に解けた。
残ったのは、ただ水の落ちる滝の音だけ。


「全ては天魔様の為に・・・・・・強くなって頂かなければ困りますよ、店主殿」




















天魔から話を聞かされて数刻。
アリスと少しだけ話をしてから、僕らは守矢の神社へと足を踏み入れた。
目に入るのは広い境内と―――その中心に正座する、椛の姿。


(成程・・・・・・今回は手加減抜きと言う事かな)


かく言う僕も、普段とは装いが違う。
黒塗りの袴と陣羽織・・・・・・この陣羽織は、天魔が普段着ているものを模倣して作った物だ。
あの陣羽織には天狗の隠れ蓑としての機能があり、見た目以上の防御力を持っている。
流石にそれと同等とは言わないが、機能のいくつかを再現する事は出来た筈だ。


「霖之助さん、分かってると思うけど・・・・・・」
「ああ、注意するよ」


アリスが囁きかけてきた言葉に、僕も小声で頷く。
今回のこれは特訓ではないのだ。
僕も彼女も、力に振り回される危険がある。気を引き締めなければ―――


「役者は揃ったようですね!」


と・・・・・・奥の社から声が響く。
現れたのはこの神社の住人、二柱の神と風祝だ。
・・・・・・妙に張り切っているように見えるのは僕の気のせいだろうか。


「お、戦装束と言う奴ですね霖之助さん。似合ってますよ。
クライマックスの時は衣装とか武器とか変えたりするのってよくありますからね!」
「いや、そういった理由で変えた訳ではないんだがね」


あーるぴーじー、とか何か言っているが今一何の事だか良く分からない。
苦笑気味に早苗の事を見守っているニ柱に僕もまた苦笑を漏らして、そして再び椛へと向き直った。
彼女は精神統一をしたまま、微動だにしない。

あの時の彼女は、手加減をしていたのか。
・・・・・・言わずもがな、それは確かだろう。彼女は剣と盾しか使わなかった。
空を飛ぶ事も、妖術を使う事も一切しなかった。
それがあったなら、僕は手も足も出なかっただろう。ましてや、あの九頭龍だ。万に一つも勝ち目は無い。

だが―――


「僕は妖怪ではないし、人間ではない。けれど、妖怪でもあるし人間でもあるんだ」
「知っていますよ。私も天魔様も、人間の強さを知っています」
「前世の記憶と言う奴かな?」
「まあ、似たようなものですね」


言って、椛は立ち上がった。
腰の沙耶からすらりと太刀を引き抜き、静かに目を開く。


「かつて紅葉は、北向観音の加護を受けた維茂に斃された。
人間は成長する生き物だと言う事を、私は知っています。
ですが・・・・・・貴方はどうなのでしょうか」


返答はしない。答えは、ただ鯉口を切る事だけだ。
そのまま刃を引き抜き、その切っ先を椛へと向ける。

言葉は要らず―――ただ刃で示すのみと、そう体現する。

極限の集中力の中では、周囲の音も、やたらと騒ぎ立てる早苗の声も聞こえず。


「・・・・・・行ってこい、霖之助」


ただ、そんな天魔の声だけが胸に響いた。
そして―――駆ける。


「―――ッ!」


息を飲んだのは、椛だ。
無理もないだろう。僕の駆ける速度は、今までのものを倍するほどに高まっていたのだ。

僕がアリスと交わした話は、身体強化の魔術の運用に関する事だった。
オールマイティに魔術を扱えるアリスは、それらの魔術に関する知識も深い。
僕の使っていた物の無駄な点などを次々に挙げ―――それを改良したのだ。

結果として得た結論は、一度喰らってしまえばどの道負けである事に変わりが無い以上、
防御力に力を割くのは無駄であると言う事。
故に、そこに回していた力は全て剣を振るう為の力、移動する為の脚力、そして反射神経の増幅へと回した。
実際に動いてみれば分かる。その差は歴然だった。

踏み込んで狙うのは、彼女の足。


「ちぃ・・・・・・ッ!」


反射的に、椛は飛び上がって後退した。
力を使わない気は無いのだろう。ただの跳躍ではなく、霊力を使った飛翔で大きく後ろに下がる。
だが―――それは狙いの内だ。


(運用変化、脚力)


様々な場所に回していた魔力を、脚力に一点集中する。
そして、地を蹴った。周囲の景色は一瞬で融け、僕の身体は椛の背後まで回りこむ。


「なっ!?」
「運用変化、膂力」


チチッ、と切っ先が石畳を擦る音がする。
振り上げというのは剣の重さを生かせない為威力が減退しがちだが、魔力を膂力へと一点集中させればそんな事は関係ない。
弧を描くように振り上がった刃は、椛の背中を狙い―――ギリギリで割り込んだ盾を、椛と共に弾き飛ばした。




















「おおお! 見てください諏訪子様、歩月からの逸刀・新月ですよ!」
「あー、早苗あのキャラ好きだよねぇ。でもあれってキャンセル出来たっけ?」


楽しんでいる様子の守矢神社の面々に、天魔は小さく笑みを浮かべていた。
そして彼女は隣でハラハラした様子で二人を見守っているアリスに対し、小さく声をかける。


「何を話してるかと思えば、なかなか霖之助には合った事だったんだねぃ、アリス」
「そう? 私としては、あんな綱渡りな魔力運用はお勧めできないのだけど」


そう不満げに呟くアリスに、天魔は小さく笑みを零した。


「霖之助はああやって手札を増やして動く方が動き易いんだよん。
ましてや、ああやっていくらでも形を変化させられるもんだ。
様々な発想を以ってその動きを変化させる事は、霖之助としても得意分野だろうしねぃ」


先程の月を模したような振り上げも、その動きにしては破格の威力だった。
椛の盾は半分に断ち割られ、彼女の腕を浅く裂いている。
深手ではなかったのか、椛は両手で太刀を持って霖之助と斬り結んでいるが。


「あの、天魔様」
「おん? 何か用かなん?」


と、そう声をかけてきたのは早苗だった。
天魔が振り返ると共に、彼女は疑問を投げ掛ける。


「先程あのお二人、何やら話してましたけど・・・・・・あれってどういう意味なんですか?」
「ああ、あれ。まあ詳しくは話せないんだけどねぃ・・・・・・早苗、お前さんは人間と妖怪、どちらが強いと思う?」
「え? それは妖怪でしょう。だからこそ妖怪退治なんていう仕事があるんですし」


当然だ、という風に答える早苗に、天魔は小さく笑みを零した。
そして首を横に振り、それに返す。


「うちはそう思わないよん。それらを比べたら、うちは人間の方を強いと言うね」
「え? で、でも、妖怪は人間を襲うじゃないですか。それに力も強いですし」
「んー、そうだねぃ。人間を襲うのは妖怪としての在り方だ。それは当然だよん。
でも、人間は成長するのさ。生きた現象であり、不変である妖怪とは違う」


かつん、と天魔は錫杖で石畳を叩く。
石畳はそれだけで簡単に砕け、錫杖の石突は地面に埋まっていた。


「今、この石畳は砕けてしまった。次もそうなるかもしれないなら、お前さんはどうする?」
「それは、もっと丈夫な石で作るとか、何か対策しますけど・・・・・・」
「そう、人間は過去の経験から学び、それを対策することが出来る。
けれど、普通の妖怪は対策と言う発想自体が出てこないんだよん。
妖怪は人々の恐れから生まれた現象であり、それが生物と言う型に嵌っただけの存在だ。
現象は変わらない。ただ決まった行動を繰り返すだけなんだよん」


天狗は人を攫う。河童は人を川に引きずり込む。
それは山での遭難や川で溺れた事への恐怖を、何らかの形として人間が納得しようとした為に生まれた認識だ。
それが人間にとっての恐怖の形である以上、妖怪はそこから逸脱する事は出来ない。


「だが人間は、ただ同じ過ちを繰り返し続ける生き物ではない。
一人二人被害に遭えば、次にどうすればそれが繰り返されないかを考える。その結果が今の外の世界なんだろう?
外の世界では、ついに妖怪は人間に淘汰されてしまった。信仰すらもねぃ」
「あ・・・・・・」


信仰を失いかけたが為に幻想郷にやってきた彼女達だ。その自覚はあるのだろう。
満足気に頷き、天魔は話を続ける。


「だからうちは、相手が人間風情だから、なんて舐め方はしない。
人の世で悪事を働き続けた妖怪は、例え鬼であろうと倒されて来たからねぃ」
「・・・・・・それは、対策ではないんですか?」
「認識を変えただけさね。そもそもうちは、最初から人間の事を評価してる。
うちの誘惑に耐えた人間は、今までに何人もいるからねぃ」


国に名を残す僧たちを思い浮かべ、天魔はただ楽しそうに嗤う。
これだから人間は面白い―――と。


「でも・・・・・・霖之助さんは半人半妖よね? その場合はどうなのかしら」


と、そう呟いたのはアリスだ。
魔法使いと言う、珍しい『成長する妖怪』である彼女は、疑問を抱くと言う行為を容易く行える。
そんな自覚は無いんだろうけどね、と小さく呟きながら、天魔は声を上げた。


「半人半妖こそ、妖怪が最も恐れるべき種族だろうねぃ」
「え・・・・・・? り、霖之助さんがですか?」
「安倍晴明然り、坂田金時然り。人間の成長性と妖怪の強靭さを併せ持つ彼らは、最も強くなる資質を持っている。
酒の力を借りたとは言え、ただの人間に鬼が斬れるものか」
「酒呑童子の伝承かな。あれは源頼光が斬ったんじゃなかったっけ?」
「やったのは金太郎さ。あれはうちを信仰してくれていたからねぃ」


話に加わってきた諏訪子に対して天魔はそう返し、くつくつと嗤う。
彼女はその笑みのまま、楽しそうに霖之助を見つめていた。


「だからうちはあいつに期待してるのさ。必ず成し遂げてくれる、ってねぃ」




















「ふッ!」


鋭い呼気。
椛は、己の放った弾幕と共に僕に向かって飛び出した。
半分に断ち割られた盾を放り捨て、太刀を持って直接僕に斬りかかる。

僕としても、それを正面から受け止めるつもりはなかった。


「運用変化、脚力」


と言うよりも、むしろ僕には弾幕を相殺する手段が無い。
あのように隙を埋めるような形で迫られては、こちらから手を出す事は出来ないのだ。

刃が振り下ろされる一歩手前まで引き付け、紙一重で彼女の攻撃を躱す。
目標を失った弾幕は派手な音を立てながら地面に突き刺さって行った。
音が止むのが早いか、僕はすぐさまその土煙の中に駆ける。
彼女の影は見えている。その背後に回り、横薙ぎに刃を振るおうとして―――


「―――ッ!」


悪寒が背中を駆け上がった。
僕はそのまま地面を踏み切り、大きく跳躍して椛の頭上を飛び越える。

そして次の瞬間、九つの龍の首が土煙を吹き飛ばした。


「お出ましか・・・・・・」


どくん、と心臓が大きく脈打つ。
僕にとって最大の障害であるとも言える、九頭龍の顎。
九つの水柱の中心に立つ椛は、その薄紅であった瞳を血の様な鮮紅色に輝かせていた。

すっと、椛が左手を持ち上げる―――


「くッ!?」


瞬間、僕に向かって顎の一つが肉薄していた。
ほとんど反射的に横に跳び、龍の首の辺りを刃で斬り付ける。
相性の上で言えば、この剣は九頭龍に対してこれ以上無いほど有利であるはずだ。
が―――刃は、僅かに水滴を跳ねさせただけで終わる。


(やはり、あの時と同じか!)


僕はそのまま後ろに跳躍する。
瞬間、僕が立っていた場所に別の龍が喰らい付いていた。
九つの顎による波状攻撃は、僕でなくとも十分に脅威である筈だ。

が・・・・・・これを乗り越えなくては、勝利は無い。

神社の境内を走り回りながら、僕は必死で思考を巡らせた。
威力は絶大であり、あの首に捕まれば水の中に飲み込まれ、身動きが取れなくなる。
恐らく、全開の二の舞だろう。

唯一の弱点と言えるべきものは、彼女は恐らく、この力を使っている最中は動けないと言う事だ。
彼女はこの力を発動させてから一歩も動いておらず、足をずらす事すらしていない。
彼女の所に辿り着きさえすれば、僕が刃を振るう方が速いだろう。

思いつく限りの方法は―――たった一つ。


(これは賭けだ。僕を試す為に力を抑えていると言うのなら・・・・・・草薙、しかと見届けてくれよ)


胸中で呟き、僕は腰に佩いていた鞘を左手で持った。
僕のその行為に、視線の先の椛は訝しげに眉根に皺を寄せる。

草薙の剣は、魔理沙が抜き身のまま発見し、持って来た物。
この鞘は、僕自身が作り上げた物だ。
今回、時間は僅かしかなかったが、僕はこの鞘に仕掛けを施した。
まあ、正確に言えば思いついたのが僕で、仕掛けを施したのはアリスなのだが。

胸中でその様子を思い浮かべながら、僕は刃を鞘に収めた。


「・・・・・・何のつもりですか、店主殿。まさか、ここで負けを認めると?」


椛の声には棘と失望が混じっている。
途中で戦を止める事は許されない、という事なのだろうか。

まあ、僕にそんなつもりは欠片として無いのだが。


「いいや、このまま千日手にする訳にもいかないと思ってね。
ここで勝負を決めようと思っただけさ」
「ほう? 貴方に、私の九頭龍を破る方法があると?」
「さてね、やってみなければ分からないが・・・・・・乗る気はあるかい?」
「・・・・・・」


安い挑発ではあるだろう。
だが、彼女の圧倒的な優位は変わらない。僕が勝利する方法など一つとして在り得ない。
彼女はそれが分かっているからこそ、挑発に乗った。


「―――いいでしょう。これで・・・・・・決着です!」


椛の声と共に、中心の龍が僕に向かって振り下ろされる。
迫ってくる龍から放たれる圧倒的な威圧感に、僕は思わず足が竦むのを感じた。
口の中はカラカラに乾き、手は小刻みに震えている。
当たり前だろう。こちらはただの半人半妖で、向こうは強大な妖怪だ。

だが―――


「―――僕には、知恵がある・・・・・・土剋水!」


そう叫び、僕は草薙を『土で塗り固められた鞘』ごと振り上げた。
同時に僕は龍の顎に飲み込まれ―――次の瞬間、その水が弾け飛んだ。


「な・・・・・・っ!?」


椛の、呻くような驚愕の声が耳に届く。
見上げてみれば、鞘は上から覆い被さろうとしていた龍の顎を吸収し続けていた。

土は水を吸い取り、常にあふれようとする水を堤防や土塁等でせき止める。
五行思想の土剋水だ。

アリスと協力して作り上げた、水で出来た龍を倒す為の作戦。
これこそ、人間が古来より妖怪を凌駕して来た知恵の力だった。

龍を一頭丸ごと飲み込み、僕はようやく剣を下ろした。
椛は動かない。恐らく、他の龍も同じ事になってしまうかどうかの判別が付かないのだろう。

実を言えば、この鞘には二頭の龍を吸い取るほどの力は無い。
だが、態々それを説明するつもりもなかった。

そのまま、作戦は次の段階へ移行する。


「鞘よ喰らえ・・・・・・水生木」


木でできた鞘が、土の吸い込んだ九頭龍をさらに吸収し始める。
草薙を納める為にと霊木の枝から作り上げたのが功を奏したのだろう。
鞘もまた龍を喰らい尽くし、莫大な霊格を得る。

そして―――


「起きろ、草薙。君の喰らおうとした龍は目の前に在るぞ!」


どくん、と。
刀の柄が、大きく脈動した。
そして草薙の刃は、己を覆っていた鞘を食い破り、喰らい尽くす!
金剋木―――金属である草薙の剣は、木に宿ったものの方が喰らいやすいと考え、施した仕掛け。

そして九頭龍の一角を喰らった草薙は、完全にその目を覚ました。
ヒヒイロカネの刀身は僅かに燐光を放ち、周囲は暗雲より降る雨に満たされ始める。

刃は歓喜の咆哮を上げ―――そして、僕は駆けた。


「っ・・・・・・九頭龍!」


椛の命令に従い、残る首が動き出す。
だが、その動きは以前よりも明らかに鈍かった。
草薙の神気を纏うこの雨は、九頭龍にとっては毒なのだ。

その鈍った動きは、僕でも容易く捉える事ができる。
一頭目を袈裟に斬り裂き、返す刃で二頭目を斬る。
掬い上げるように喰らい付こうとしてきた三頭目は跳び上がって躱し、
上から襲ってきた四頭目を斬り裂いてから落下し、刃を先程の三頭目に突き刺した。

そしてその場で身体を回転させ、横薙ぎに刃を振るう。
両側から襲ってきた二頭をその一太刀で斬り、
僕は回転の勢いを横にずらし、正面から襲ってきた七頭目を紙一重で躱しながらその首を刎ねた。

そして―――最後の八頭目を、大上段からの振り下ろしで両断する。
刃を構え、僕は佇む椛へと駆ける。彼女もまた太刀を持ち上げ、僕に向かって刃を振るった。


「おおおおおおおおッ!」
「はあああああああッ!」


刃が打ち合わされ―――草薙が、椛の太刀を両断する。

そして、返す刃が―――


「ッ・・・・・・僕を操ろうとするな、草薙!」


―――彼女の首を刎ねる前に、僕の腕は止まった。


「道具は、人が操るものだ。道具が使い手を操るなど、それは本来あるべき形ではない!」


僕がそう叫ぶと同時、掌から感じていた脈動する気配が消え去った。
深く安堵の息を吐き、僕は刃を下ろす。
雨はいつの間にか止んでおり、僕は小さく苦笑した。

目の前の椛に向け、呟く。


「・・・・・・さて。僕の勝ちでいいかな、椛」
「・・・・・・ええ、私の完敗ですよ、霖之助殿」


―――そう言って、彼女は嬉しそうに笑った。




















「二人ともーぅ!」
「おわっ!?」
「きゃっ!?」


椛と握手を交わしていた所に、突然天魔が飛びついてきた。
僕ら二人の肩を同時に抱き、何やら嬉しそうに頬擦りし始める。


「やぁ、良かったよ~二人とも~」
「あはは・・・・・・嬉しいのは分かりますけど、少し落ち着いてください」


困ったように笑いながらも、嬉しそうに尻尾を振っている椛に、僕もまた苦笑を漏らす。
とりあえず草薙の刃に天魔が触れない様に持ち替えながら、僕はその感触を確かめた。

刃からは、先程のような強い気配や脈動を感じない。
僕の中に在った不快感も消え去っているが、草薙は元々の、ただの刃へと戻っていた。


「・・・・・・やっぱり、まだ操るのは無理かなん?」
「お見通しか。九頭龍の一体を喰らった事によって、一時的に覚醒状態になっただけかもしれないな。
その最中に僕自身が操られなかっただけでも重畳か」
「・・・・・・一応言っておきますけど、使おうとする度に龍を喰らうのはやめてくださいよ?
再生するとは言え、私も結構痛いんですから」
「そうだねぃ」


体勢はそのまま。
そのまま真面目な話をし始めると、何やら密談しているような仕草にも見えてしまった。
天魔は草薙をじっと凝視し、小さく溜め息を漏らす。


「どうやら、まだまだ使われてやるつもりは無いみたいだねぃ」
「向こうから使ってくれ、と言わせるまで行かなければなりませんね」
「・・・・・・まあ、程々に頼むよ」


天魔の能力によって意志を増幅されていなければ、僕自身にそんな強い意欲は無い。
苦笑しながら無意識に鞘を取り出そうとして、先程使ってしまった事を思い出した。
抜き身のまま持ち帰るのは少々不便だが、まあ仕方ないだろう。

と―――


「霖之助さんっ!」
「・・・・・・早苗?」


何やら意気込んだ様子の声に振り返れば、早苗は母屋の方から黒い外套を手に駆けてくる所だった。
彼女は僕の元に辿り着くと、それを僕の肩に掛けながら興奮気味に語り始める。


「おお、良い感じ、良い感じですよっ!
それでですね、刀をこうやって納めながら、『己の器を知れ』って言ってみてください・・・・・・
って、ああ! 鞘が壊れてる!」
「え、あー・・・・・・済まない?」


ショックを受けた様子の早苗に、僕としてはどう反応していいのか悩みながら、とりあえず謝罪しておく。
何が悪いのかはよく分からなかったが。


「あはは・・・・・・まあ、気にしないであげて」
「まあ、そう言うのであれば」


諏訪子の言葉に首を傾げながら、肩から外套を外してみる。
外の世界ではコートと呼ばれる上着であるようだが、何故袖に腕を通さないのだろうか。
腕を通そうとしたところ、早苗が、


「駄目ですよ! それはそういう風に羽織る物なんです! 前は留められるから大丈夫ですよ!」


と言う風に力説するので、普通に着る事は出来なかった。
外の世界では、そういった着方が主流なのだろうか?


「今度からそれを着て戦ってくださいね!」
「何? いや、僕は―――」
「外の世界で有名な剣士が着てたものですから、間違いありません!」
「何だって?」


能力で観てみれば、この服の名前は『御名方守矢の外套』とあった。
守矢神社に縁のある人物なのだろうか。
僕は知らない人物だが、そう言うのであれば有用な物なのかもしれない。


「邪魔にならないように改良しなくてはならないかな・・・・・・」
「まあ、現人神の執ね・・・・・・じゃなかった、思い入れが籠もってるから、効果はありそうだけど」
「何か言ったかい?」
「いや、何も」


肩を竦める諏訪子に首を傾げながらも、僕はとりあえずこの外套を受け取る事にした。
隣で天魔が不満げに唇を尖らせながら、


「折角お揃いだったのにねぃ」


等と呟いていたが、聞こえなかった事にする。
まあともあれ、今日は疲れた。さっさと帰りたい所だ。


「さてと・・・・・・それでは、お邪魔したね。神奈子、諏訪子、早苗」
「ああ、いい見世物だった。また何かあったら見せてくれ」


笑みながら、神奈子はそう口にする。
長き時を経た軍神にとっては、この程度の戦は遊びでしかないのだろう。
苦笑し、僕は彼女らに背を向けた。




















「おやおや、これはこれは」


妖怪の山の上空―――彼女はその眼下を見つめ、小さく笑みを浮かべる。


「これは、伝えておいた方がいいかな?」


下にいる彼女たちは、様子を探る鼠の存在に気付いていなかった。















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No title

ども、サイモンディス。

天魔様シリーズの続ききましたこれ! 今回は前回の続きですな。
いろいろ言いたいことあるけど、とりあえず早苗さん自重w この子、絶対MUGENとかやってるだろw オリジナル月華でもいいけどw

あと霖之助とお揃いのかっこじゃなくなって拗ねる天魔様カワユス。やっぱりペアルックは憧れますよね! でも御名方守矢の外套が……。名前だけ見ると、早苗さんの策略な気がしてならない。

後、小さな賢将さん。報告は不要かと思われます。だって絶対ややっこしいことになるしw

No title

椛との再戦、まだ操れない草薙の剣を道具で補って利用するところなんてまさに霖之助らしい感じがしました。
ひと山越えた先に命蓮寺組が来そうですがどうなる事か続きが気になって仕方ありません。


最後に、   天 霖 は 俺 の 他 化 自 在 天!!




……天霖は俺の大魔縁!!の方が語呂がいいかな

デーンデーンデーン
常識は投げ捨てるものでh(ry

天魔様がペアルックでもいいじゃないと言ってみる。というか黒白にこの「友達」関係がばれると確実にマスパオチが・・・・・・
あとナズーリンが草薙の剣に興味を示す可能性もある気がする。

No title

「最近、天魔さま見ないなー」とか思ってた矢先に来たよw
霖之助の使った強化は僕好みですねー
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