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とある天狗と九頭龍権現

天魔様と椛の関係と、霖之助。
ここまで符合が一致したのは正直予想外でした。
天魔様と霖之助はちょっと爛れてる位がちょうどいいと思うんだ。













とある日の昼下がり。
店の裏手で剣を振るう時間だが、そこには僕と天魔以外にもう一人の存在があった。


「と、言う訳で・・・・・・今日からは椛にも訓練を手伝って貰うよん」
「あ、えーと・・・・・・よろしくお願いします、店主殿」
「ああ、こちらこそよろしく頼むよ」


犬走椛と言う、一般の天狗にもかかわらず何故か天魔の事を知っている少女。
僕に向かってぺこりと頭を下げてきた彼女に、僕も礼で答えた。
剣を交えるとなれば、礼儀を忘れる訳には行かないだろう。

しかし―――


「いいのかい? 天魔の事を許していて」
「あー、まあ、お目付け役みたいな仕事ですけど・・・・・・どなたかに迷惑をかけていないのなら」
「おーい、何故うちが子供みたいな扱いをされてるのん?」
「自分の胸に手を当てて考えてみるといい」


半眼で睨みながら言うが、天魔に堪えた様子は無く。
分かりきっていた事ながら、僕は深々と嘆息した。


「全く・・・・・・それで、どういった趣向だい?」
「おん?」
「彼女を紹介して貰ったのは分かるが、訓練に加わってもらう必要があったのかな?」
「んー・・・・・・そうだねぃ。霖之助、ちょっと剣を抜いて」
「? どういう事だ?」
「いいからいいから」


天魔に促されるまま、僕は霧雨の剣を抜く。
すると、その瞬間―――椛は、それを見てびくりと体を震わせた。
それどころか、驚いた様子で天魔に向かって詰め寄る。


「て、天魔様!? 何であの剣があんな所に!?」
「おー、やっぱり覚えてたんだねぃ」
「そういう事ではなくて!」
「どーやって手に入れたかはうちも聞いてないよん。それは大して重要じゃないしねぃ」
「重要じゃないって・・・・・・」


絶句した表情で、椛。
かく言う僕も同じような感想だ。
この国で最も知られた剣を『重要じゃない』等と言うのは彼女ぐらいなものだろう。


「必要なのは、お前があの剣を覚えている事だったんだよん」
「・・・・・・いいかな、天魔」
「聞きたい事は大体分かるけど、何かなん?」
「だったら最初に言ってくれ。彼女は、何故この剣の事を知っているんだ?」


草薙の剣と言う、類を見ない神剣。
遥か神代のこの武器を見た事がある者など、そうはいないだろう。
それならば、彼女は一体―――

僕の問に、天魔はにやりとした笑みを浮かべながら答えた。


「霖之助、九頭龍権現って知ってるかなん?」
「九頭龍権現?」


確かに、聞いた事はある。
九頭龍に関する伝承は各地に伝えられており、それぞれ別の伝説となっているのだ。
中でも有名なのは、ヤマトタケルノミコトによって倒された九頭龍の伝説だろう。

鬼泪山に九頭一尾の大蛇が住み着き、周辺の住民はヤマトタケルノミコトにその退治を願った。
彼はその草薙の剣で大蛇を倒し、近くにあった川は三日三晩大蛇の血に染まったと言う。

確かに、草薙の剣に関係する伝承だ。
だが、それが椛と一体どんな関係があると言うのだろうか。


「・・・・・・いや、待てよ」


天魔は、わざわざ『九頭龍権現』と言った。
伝承の事を表すのならば、『九頭龍伝承』で良かったはずだ。
九頭龍権現と言う名がつくのは、確か―――


「・・・・・・そうか、戸隠の九頭龍権現か」
「おお、さすが霖之助! 良く知ってるねぃ」


天魔は、何故か嬉しそうに手を叩く。

戸隠の九頭龍権現と言えば、修験道に組み込まれた地神であり、滝の化身だ。
だが、それはある存在が封印された事によって作り出されたものだったはずだ。


「戸隠の九頭龍権現、そして様々な九頭龍の伝承・・・・・・それらの幻想が集まってる場所がある」
「幻想郷であるが故に、かな」
「そうだねぃ。ここは、外で幻想となったものが寄せ集められる。
それ故、外の伝承は似通った伝承に引き寄せられたんだねぃ。
我が妖怪の山―――九天の滝は、九頭龍権現を宿しているんだよん」


天魔がいる以上はそれも当然の事だったのかもしれない。
何せ、九頭龍権現の滝に封印されているのは、『第六天魔王の娘』であるからだ。
戸隠山の鬼女・・・・・・名を、『紅葉』と言う。
かの鬼女は、九頭龍や鬼、白狼に化けて平維茂に襲い掛かったと言うが―――


「しかし・・・・・・驚いたな。彼女は君の娘だったのかい?」
「あ、いえ―――」
「ん、紅葉は別にうちの娘だったって言う訳じゃないよん。うちが育てたのは確かだったけど。
娘って言うより友達と言うか後輩と言うか、そんな感じだったからねん。それに、椛は紅葉じゃないしねぃ」
「む? ああ、よく考えてみれば確かにそうだ」


草薙の剣を知っていたと言う事は、彼女は鬼泪山の九頭龍に関係している筈だ。
けれど、戸隠の九頭龍―――紅葉がそれに関係していたと言う伝承は無い。
となれば、先程天魔が言っていた事が答えか。


「九天の滝には、様々な九頭龍伝承の幻想が集まっていたと言う事か?」
「そう、そして椛はあの滝から生まれた。天狗としては変り種だねぃ。
昔の変化する姿になぞらえた結果が白狼天狗だったのかもしれないけどねん」
「ふむ・・・・・・成程。それで彼女は九頭龍の記憶を持っているのか」


それなら、天魔が傍に置きたがる理由も、椛が天魔の事をよく知っている理由も理解できる。
生まれる遥か昔・・・・・・いや、妖怪の山自体が出来る以前から、椛は天魔の事を知っていたのだ。
―――そして彼女は、ヤマトタケルノミコトに倒された九頭龍の記憶も持っている。


「天魔、君が彼女を呼んだ意図も理解できたよ。確かに、それは有効そうだ」
「でしょ?」


得意げに天魔は胸を張る。
要するに、天魔はかつての伝承をなぞらえさせようと言うのだ。
僕が草薙の剣を以って、九頭龍たる椛を倒す事で。

確かに、それは草薙の剣のとってもいい刺激となるかもしれない。
その結果どうなるかは分からないが―――試してみる価値はあるだろう。


「さてと、それじゃあ早速始めてみようかなん。ほい、二人とも構えて構えて」


天魔は手を叩きつつ僕らを促す。
その言葉に従い、椛もまたその太刀を抜き放った。
そして彼女は、盾で身を隠しながら太刀を構える。
脇構え―――己の身で刃を隠し、間合いを悟らせぬようにする古流剣術の型だ。
その身に刻まれた業すらも覚えていると言うのなら、要注意である。

対する僕は、いつも通りの正眼。
最も踏み込み易く、最も汎用性のある型。
魔術で体を強化しつつ、僕はじっと彼女の瞳を見つめた。


(む・・・・・・・・・?)


少し、違和感。
しかし、それを確かめる間もなく、椛は仕掛けてきた。


「せいっ!」


盾を使ってこちらを押すようにし、視界を塞いでから振り下ろされる太刀。
僕は後ろに下がりながら盾の衝撃を殺し、振り下ろされる刃にはこちらの刃を絡めていなした。

そして、反転。
下がろうとしていた体重を前にかけ、いなした際に横向きなった刃をそのまま横薙ぎに振るう。
がら空きになっていた体の右側だが、彼女は無理矢理に盾をねじ込む事でそれを受け止めた。
だが、そのおかげで彼女の体勢には無理が生じている。
これを逃す手は無かった。


「続けて行くよ」


刃を戻し、今度は右上段から彼女の左の肩口を狙う。
それに対し、彼女は受け止める事は不可能と判断したのか、その場から飛び退った。
だが、逃すつもりは無い。
僕は彼女に張り付くように駆け、着地して沈んだ姿勢の彼女に先程と同じ剣閃を放った。


「く・・・・・・っ!」


椛は太刀を振り上げ、僕の刃を受け止め、弾き返す。
振りあがった刃はそのまま腰溜めの姿勢に回され、椛は上体の泳いだ僕の胴に対して突きを放った。
貫かれれば致命の傷だが、まだ慌てるほどではない。
左足をすり足で後ろに回し、体を半身にしつつ紙一重でそれを躱す。
そして右足をさらに横に滑らせ、僕は左上段から体重を乗せて刃を振り下ろした。

ガキン、と重い金属音が響く。


「くぁ・・・・・・っ!」
「ぬ・・・・・・!?」


思わず、目を剥く。
僕が両腕で振り下ろした刃を、椛は左手の盾のみで受け止めていた。
無論彼女の表情も苦しそうではあるが、まさか受け止められるとは思っていなかったのだ。
弾かれて体勢の泳いだ彼女ならば詰みの一手を放てるかと思ったが、当てが外れた。
片腕が開いている相手に押し合い続けるのは意味が無いので、僕はそのまま後方に飛び退る。


「・・・・・・力では君の方が上のようだね」
「ええ、そのようです・・・・・・しかし、予想以上ですよ、店主殿。
いつも天魔様との訓練を拝見させて頂いておりましたが、これほどとは思っていませんでした」


一度太刀を横に振り、構え直しながら椛は言う。
あの分厚い刃を片腕で軽々と振るっているのだから、膂力が凄まじいのは当然の事だったか。


「ふふ・・・・・・少し、楽しくなってきました。これからが本番ですよ」
「やれやれ。君も違わず、幻想郷の少女だったか」


先程彼女の瞳に見えた迷いが何だかは分からなかったが、今の高揚している彼女にはその様子は見えない。
あれは、僕の見間違いだったのだろうか。
いや・・・・・・今は目の前の事に集中すべきか。

再び、僕も刃を構える。
そして―――今度は、こちらから仕掛けた。

狙うのは彼女の右の肩口。
上段から袈裟に振り下ろされた刃を、彼女は盾を添えた太刀で受け止めた。
片腕でも受け止められるものを、両腕で。
無論の事、いくら力を込めようともびくともしない。
咄嗟に下がろうとしたその瞬間、彼女の足が僕の腹を蹴り飛ばした。


「ぐっ!」


きちんと体重を乗せた物ではなかったため威力はそれほどでもなかったが、
その衝撃に思わずたたらを踏む。
その隙に、椛は接近して刃を振るった。
上段の刃は、僕の右の肩口を狙う。


「ちっ・・・・・・!」


判断は一瞬。
僕は腰を深く落としながら左手を峰に当てて刃を受け止めつつ、右足で彼女に向けて踏み込んだ。
全体重を乗せた肩が彼女の胸に当たり、体重差もあってか椛はあっさりと弾き飛ばされる。
そして片腕だけではあったが、僕は体の泳いだ彼女に向けて刃を振るった。

銀の糸が宙を舞う。
予想以上に彼女が遠くまで飛ばされてたためか、刃が彼女に直接触れる事は無かった。

―――いや。


「自分から跳んだの・・・・・・かな。随分と無理な体勢だったと思うが」
「ええ、ギリギリでしたよ。咄嗟の判断でしたが、上手くいきました」


小さく笑って椛は答える。
けれど―――彼女の表情は、何故か申し訳無さそうに歪んだ。


「・・・・・・ごめんなさい、店主殿。先に謝っておきます」
「何がだい?」


彼女の瞳に在るのは、先程浮かんでいた苦悩の色と同じだった。
悲しそうに、彼女は呟く。


「私の事は恨んでくださって構いません・・・・・・ですから、どうか天魔様の事を嫌わないであげてください」
「・・・・・・? 君は、何を―――」


問いかけようとした、その刹那―――


「―――権現『九頭一尾の大蛇の顎』」


―――彼女の足元から、巨大な水流が巻き起こった。


「なっ!?」


水は渦を巻き、九つの巨大な水の柱を作り出す。
否、それは・・・・・・巨大な、九つの龍の首だったのだ。

背筋が粟立つ。
巨大な威圧感に、思わず喉が鳴った。

そして―――中央の首が、僕に向けて振り下ろされた。


「くッ!?」


本能的に、大きく跳び退る。
龍の顎は地面に着くと水のように弾け、そしてすぐさま同じ形を取って正面から僕に襲い掛かった。
反射的に刃を振るい、龍の顎を斬り裂く。

―――しかしそれは、僅かに水滴を飛ばすだけの結果に終わった。


「な―――」


そして、僕の体は龍の顎に飲み込まれた。
『懐かしい』と―――僅かに響いた声を、耳に残して。




















「ッ・・・・・・!」


店主殿は、私の発した水の中でもがき、苦しんでいる。
このままでは―――


「っ、まだですか、天魔様!」
「まだだ、続けろ」


有無を言わさぬ口調で、天魔様は私を睨む。
その天狗の頭領としての口調をされてしまえば、私は逆らう事はできなかった。

天魔様はこの訓練を始める前から、この事について私に話していた。
私の九頭龍を使って、店主殿を飲み込むと言う事。
最初は何の事を言っているのか分からなかったが、今なら分かる。
これを使って、あの剣を目覚めさせようとしているのだ。

でも―――


「天魔様!」
「まだだと言っているだろう」


天魔様の言葉は、変わらず。
本気なのかと、思わず頭に血が上った。
思わず振り返り―――言葉を失う。

天魔様の口の端から、血が流れ落ちていた。
自分で唇を噛み千切ってしまっていたのだ。

この方も、辛いのだ。けれど、それなら何故そこまでして続けようとするのか。
店主殿の方に振り返れば、彼は一際大きな気泡を口から吐き出した所だった。

・・・・・・もう、駄目だ。これ以上は彼が死んでしまう。
咄嗟に術を解こうとした―――その、刹那。


「・・・・・・来た」


そんな、天魔様の呟きが耳に届いた。
思わず振り返ろうとし・・・・・・背筋が、粟立つ。


瞬間、彼を捕らえていた筈の龍の首が、内側から弾け飛んだ。


「な―――!?」


内から現れたのは、淡い燐光を放つ刃を携えた店主殿。
一つの首が倒された事で、残る八つの首が自動的に彼に向かうが、
彼はその刃の一振りで、その八つの首を消し飛ばしてしまった。


「あ・・・・・・」


酷く、喉が乾く。
輝くあの刃から、目を逸らせない。

そうだ、あの刃は。

よくも。

おのれ。

よくもこの身を、ヤマトタケル―――!

憎い。

憎い、憎い。

憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い―――!


「あ、あああああああああああああああああああああ!!」


振り下ろされる刃に、牙を剥く。

この身に宿る大怨を晴らせ―――!


「―――もういい、良くやった」


―――そんな澄んだ声と共に、私の意識は途切れた。




















苦しさと共に咳き込みながら、目を覚ます。
口の中に残る水を吐き出して、僕は体をくの字に曲げた。


「霖之助、大丈夫?」


上から僕を見下していたのは、どこか安心したような、それでいて申し訳無さそうな表情の天魔だった。
彼女の口元を見、そして口の中に残る鉄の味を確かめ―――小さく、苦笑する。


「・・・・・・ずいぶんと無茶してくれたな、天魔」
「う・・・・・・やっぱり、霖之助はお見通しか。ん・・・・・・ごめん、霖之助」


普段の様子からは信じられないほど素直に天魔は謝罪する。
これは、本気で悪かったと思っている際の印だ。
それならばやらなければ良かったものを、と小さく嘆息する。


「風呂を沸かすつもりだけど、入るかなん?」
「ああ・・・・・・流石に、少し体が冷えたかな」
「詳しい話は後でしよう。今は体を温めて」


まあ、何というか・・・・・・違和感を感じるぐらいにしおらしい。
責任を感じているのだろうか。
まあ確かに、悪いのは彼女なのだが。

店の中へ走って行く彼女の背中を見つめて、僕は小さく肩を竦めた。










術で水を張って火を熾したのか、風呂はものの数分で沸いていた。
湯船に浸かれば、水を浴びて冷えた体に熱が灯る。

息を吐き、僕は外にいるであろう天魔に声をかけた。


「彼女はどうしたんだい?」
「椛なら先に帰ったよん。霖之助によく謝ってた。悪いのはうちなんだけどねぃ」
「全くもってその通りだね・・・・・・って、何故そこにいる」


皮肉った声を掛けると、何故かその声は脱衣所の方から返ってきた。
衣擦れの音が聞こえてくる辺り、何をするつもりなのかは分かり切っているが。

そして風呂の扉が開き、彼女が中に入ってくる。


「・・・・・・どういうつもりだい?」
「んー・・・・・・まあ、気分かなん」
「だったらせめて湯浴み着ぐらい持って来たらどうだ」
「風呂にあんな布っ切れを着て入るのはナンセンスだよん」


まあ言うだろうとは思ったが、嘆息する。
別にこの間も同じ湯に入ったのだから、それほど気にする事でもないのかもしれないが。
湯を体に掛け始めた天魔に、僕は声を掛ける。


「それで、何故あんな事をさせたんだ?」
「・・・・・・霖之助なら、大体の理由は分かってると思うけどねぃ。
まあとりあえずは、伝承になぞらえさせる事が目的だったんだよん」


伝承において、ヤマトタケルノミコトは九頭龍に飲み込まれ、
その後体内から草薙の剣を用いて九頭龍を切り裂き、抜け出してその九つの首を落としたと言う。
確かにあの龍の顎に飲み込まれる事は、草薙の剣に対するこの上ない刺激となるだろう。
だが―――それだけではない筈だ。


「霖之助は分かる筈・・・・・・道具にも心があるって事がねぃ」
「ああ、それは勿論だ。だからこそ、僕は能力で道具の記憶を読む事が出来る」
「そう・・・・・・そして心があれば欲がある。つまり、そういう事だよん」


つまり、天魔は草薙の剣の何らかの感情に働きかけたという事か。
個人的には、彼女の能力がそこまで及ぶものだと言う事に驚かされたが。


「つまり、草薙の感情・・・・・・この場合は『負けたくない』と言う思いか?
ともあれ、それに働きかけて力を使わせたと言う訳か」
「以前に倒した相手に敗れるのは屈辱だろうからねぃ。
あの剣はずっと眠っていた。霖之助が振るっていても、その感情を感じる事は出来なかった。
だから、荒療治に踏み切ってみたんだよん」
「成程ね」


九頭龍に飲み込まれた時、もしも刃だけだったら戦うことは出来ない。
成す術無く敗北してしまえば、剣としてのプライドを折ってしまう事になるだろう。
だからこそ、僕と共にあの中に放り込んだのだろう―――が。


「・・・・・・随分と、無茶な事をしてくれたな」
「うう・・・・・・だから悪かったってば」


苦笑しつつ、天魔は湯船に入ってきた。
この風呂はそれほど広い訳でもないので、二人肩を触れさせるほどの距離に座る事になる。


「あのままじゃ、例え霖之助が大成したとしても剣を操る事はできなかった。
剣が眠ったままじゃどうしようもないからねぃ。
けど、あとは霖之助が腕を磨けばいい話だよん。
剣が『使われたい』と思うような使い手になる事が、次の課題だねぃ」
「やれやれ・・・・・・また、随分と大変そうだ」
「けど、道筋が見えてるだけやる気はあるだろう?」
「まあ、ね。君の能力のおかげでもあるんだが」


本当に、汎用性の高い能力である。
あっさりと心を操ってしまう、干渉されていても知っていなければ気付けない恐ろしい能力でもあるが。


「この能力の事を知って、恐れないのは椛か霖之助ぐらいだねぃ。
いつ操られてるかも分からないんだよん?」
「操られていたとして、君がするのはいつも僕が楽しめる形だろう?
だったら、別に問題は無いさ」
「ホント、変わってるねぃ」


小さく笑う声。
パシャ、と水音が響き、天魔の手が僕の肩にかかる。
何事かと振り向いてみれば、僕の視界は全て天魔の顔で占められていた。

互いの唇が触れそうな距離で、彼女が囁く。


「だからこそうちはお前を気に入ってるんだよん、霖之助」


言葉の端には、どこか甘さが混じる。
能力で操られているからか、もしくは元々強い想いがあったのか。
どちらにしろ、僕の中で鎌首をもたげた欲は、余す事無く脳髄を焦がしてゆく。


「物好きだね、君は」
「いいじゃないか。たまにはこういうのも・・・・・・さ。今日頑張ったご褒美って所かなん?」
「成程、なら受け取っておかなければ返って恥か」


手を持ち上げ、彼女の頬に触れる。
その表情は、いつもの笑顔とも少し違う―――蠱惑的で、愉しそうな笑み。

その瞳に酔いしれ―――僕は、唇を寄せた。















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キャーオフタリサーン


今回は終始2828しながら読ませていただきました


中二展開のテンプレである「力の覚醒」

その後のR-15展開


いいぞもっとやれwww


この調子でネチョもry

No title

4つ全部見てきました!…ってか、あなただったのねw
まさか、この短期間で天魔さま含めて4つも…!もうすごいとしかw

ちなみに残った一つ、カナサ霖(カナ+ルナサ+霖之助)のプロットを上げたのは僕だったりしますw
やー…なんか僕が1番面倒なもん上げたみたいですみません(汗
あんな感じでRPGのシナリオも書きましたw
今は投稿シナリオ第二弾を執筆中です…超弩級の遅筆ですが、2次募集には間に合わせます!お楽しみに~

それでは~

No title

どうもサイモンディス。
しかし今回は オ チ が エ ロ イ 。
なんだよ爛れた関係とか、実はくっつくための最短ルートとかじゃねぇかよ!
今まで見てきたカップリングの中でも、相当のはやさだぜ! 何がとは言わんけど。
しかし今回の椛新説は面白いですな……。というかこんなに符合が重なるもんですかね?
公式でも指摘されているパーツがそのまま九頭龍の伝承になぞらえることができるとは……。
ぢつは神主もその辺を意識して椛というキャラを作ってたり?

えっ 「友人」って・・・ えっ
やっぱり「天狗は開放的」なのか・・・。
というか霖之助SS作者の人達はほんと焦らしが上手ですねっw

神奈子様と天魔様の絡みもこれから増えそうですな。
プロフィール

Allen

Author:Allen
動画を作ったりSS書いたりしてる創作生物です。
何か作ってないと生きていけません。

・リンクについて
リンクフリーですので、よろしければじゃんじゃんリンクして下さい。

・連絡先
《allenseaze17★livedoor.com》
★を@に。でもこのメールあんまり見ないので、コメントとか拍手の方が連絡はつくような気がします。

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