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輪廻の唄

何となく気まぐれで相手をしただけだったはずなのに、
いつの間にか興味を惹かれて行ってしまう。
そんな幽香さんのお話。














くるくると。
くるくると。

夕日の中で、日傘が回る。
緩やかに、ただ緩やかに。

向日葵に囲まれた太陽の畑で、私は静かに夕日を見上げていた。

くるくると。
くるくると。

沈む太陽は、回り回って朝日となるのだ。
こんな夕日を見ていると、あの日の事を思い出す。

クルクルと。
狂々と。




















多くの向日葵達に囲まれ、私は夕日を見上げていた。

どれほどの時をここで生きただろうか。
人間を襲う事もあまり意味はなく、襲って来る者達だけを相手にする日々。
そしてそれすらも少なくなったある日、私はある向日葵の声を聞いた。

『遠くの方から、こちらを眺めている存在がいる』と。

ただ眺めているだけならば、捨て置いても何ら問題はない。
けれど、その日の私は暇だった。
だから、私はそれを確かめに行ったのだ。

―――それが、奇妙な縁の始まりと知らず。










「こんにちは」
「・・・・・・こんにちは」


そこにいたそいつは、私の声にそう答えた。
丘の上に座り、ただじっと太陽の畑を見つめながらぼそぼそと声を上げる子供。
若干気に入らなかったが、別にこの場所を血で汚すほどの理由でもなかった。


「貴方は、こんな所で何をしているのかしら?」
「・・・・・・生きている」


子供の屁理屈か―――そう思ったが、そいつの目は何処までも本気だった。
奇妙に思い、その子供にじっと目を凝らす・・・・・・そして、気付いた。


「ふぅん・・・・・・成程、雑種って訳ね」
「・・・・・・」


沈黙は、肯定か。
ただ、畑を見つめるその金色の瞳が、一瞬揺れた。
夕日に染まった為にそう見えたのかと思ったそれは、どうやら元からそんな色だったらしい。


「それで、どうしてこんな所に来たのかしら」
「・・・・・・分からない。歩いていたら、辿り着いた」


そいつは、ただ端的にそう答える。
大方の予想は付くが、別にそいつの生き方などに興味はなかった。
益にも害にもならない存在に、私は興味を失う。


「なら勝手にしなさい。もうじき妖怪の時間・・・・・・襲われる事は無いでしょうけど、ここにいる意味もないわ」
「・・・・・・」


きょとん、と―――そいつは、何故かそんな表情を浮かべた。
理由が分からず、私は眉根を寄せる。

そいつはしばし逡巡した後、私に向かってこう声を上げた。


「・・・・・・生きるとは、どういう事だろう」
「妙な事を聞くわね」


別に、答える理由など無い。
ただ、今まで無表情だったそいつが反応した事に機嫌を良くした私は、
特に理由も無く己の持論を口にしていた。


「繰り返す事、かしら」
「・・・・・・?」
「花は繰り返し、繰り返し命を繋いでゆく。長さは違えど、人間も同じ。妖怪だって、それは変わらない」


だが―――


「―――それでも、生きていてしまう物なのよね」


それだけ口にし、私は踵を返した。
視界に映るのは、沈みかけた夕日。

くるくると。
くるくると。

世界はただ廻るのだ。
私達妖怪は、それでも生きてゆく。

クルクルと。
狂々と。




















次にそいつを見かけたのは、蛍の舞い始める時期だった。

蛍の妖怪を追い払った後、どうせだから光っている所でも眺めに行くかと小川の辺りへ足を向けた時、
そいつはその小川の傍に座り込んでいた。


「こんばんは」
「・・・・・・こんばんは」


そいつは一瞬驚いたように顔を上げ、そして再び小川へ視線を戻す。
金色の瞳に映るのは、緑に輝く蛍の光だ。

優雅で幻想的な光景を前に、しかしその瞳に輝きは無い。


「こんな所で何をしていたのかしら?」
「・・・・・・生きている」


以前と同じ質問と、以前と同じ答え。
要するに、この子供は進歩していないのだろう。
妖怪など、そんなものだ。


「貴方は、以前生きる事は繰り返す事だと言った」
「ええ、そうね」
「この蛍たちも、そうなんだろう」


子を成す為に光を放ち、そして死んでゆく。
脆弱な人間よりも、さらに弱い蟲。

ならば、半人半妖は何だと言うのだろうか。


「でも・・・・・・僕達は変わらない」
「そうね」
「僕だけが、取り残される」


結局の所、そいつは弱い存在なのだ。
どちらでも生きる事が出来ないから、そうやって歩き続ける事すら出来ない。

人よりも蟲よりも弱い、脆弱な存在だ。


「それに、何の問題があるのかしら」
「・・・・・・・・・・・・」
「弱いなら弱いなりに歩き続けなさい。いずれ、一人で生きられるまで」


一人では生きていけないとか、保護されるべきとか、そんな事は私には関係ない。
これがどうなろうと、私の知った事ではないからだ。


「どうやったら・・・・・・真直ぐ歩き続ける事が出来るんだ」
「さあね。そんな事、私だって知らないわ」


それだけ口にし、私は踵を返した。
視界に映るのは、必死に生きようとする蛍。

くるくると。
くるくると。

命はただ廻るのだ。
私達妖怪は、それでもそこに在る。

クルクルと。
狂々と。




















夏のある日。
畑の一部を凍らせてくれた妖精を消し飛ばした私は、ふと視界の端に銀色の影を見つけた。
見覚えのある影は、どうやらあの雑種のようだった。


「こんにちは」
「こんにちは」


以前よりも、幾分か表情が和らいでいる。
身体的にも少しだけ成長したそいつに、若干時の流れを感じさせられた。


「貴方は、そんな所で何をしてるのかしら?」
「歩いている」


どうやら、心も以前よりはマシになっているようだった。
まあ、別に私には関係ないけれど。

半人半妖という便利な種族だ。
弱さこそあれど、その体質はただ生きるだけならば何かを気にする必要はない。

けれどそれは、生きていると言うべきものなのだろうか。
どうやらそれは、そいつにとっても疑問な事のようだった。


「ただ歩いてゆくだけなら、簡単な事だった」
「そうね、貴方だったらそうでしょう」
「けど、平穏を選べば選ぶほど、昔欲しかった生き方から遠ざかる」
「そうね」


そいつはどうやら、再び答えを求めにここに来たようだった。
珍しく親切にしてやったのが間違いだっただろうか。
まあ別に、滅多に顔を見せる訳でもないので別にいいけれど。


「貴方は人でも、妖怪でもない。だから共に生きる事など出来ないでしょう」
「・・・・・・・・・・・・」
「確かにそれは、聡明な生き方かもしれないわね」


私は、畑の方へと視線を向ける。
能天気な妖精たちは、向日葵の上で昼寝をしたり、輪になって踊っていたりした。


「けれど・・・・・・阿呆であった方が、幸せな事もあるのよ」
「例えそれが、愚かな選択であっても?」
「ええ、その通りね。例えそれが、一時の幸せだったとしても」


それだけ口にし、私は踵を返した。
視界に映るのは、輪になって踊る妖精。

くるくると。
くるくると。

何も考える事無く、ただ楽しんでいる。
私達妖怪は、そんな生き方を知る事もなく。

クルクルと。
狂々と。




















月の満ちる夜。
妖怪の力の昂ぶるその日、私は月光浴に出かけていた。
己の力量を知らぬ妖怪達を蹴散らしながら、何処へともなしに歩く。

そんな折、私はふと月の光を浴びる銀を見つけた。


「こんばんは」
「・・・・・・ああ、こんばんは」


それは、しばし見る事の無かった雑種。
少年から青年へと成長していたそいつは、しかしその瞳の色をかつてのように沈ませていた。


「こんな日には、何だか会える気がしていたよ」
「私は忘れかけていたのだけどね」


しばし見ぬ間に、そいつは随分と饒舌になっていたようだった。
いつまでも以前のような態度でいられても不愉快だったから、それは別に構わないが。


「それで、貴方はそんな所で何をしているのかしら?」
「・・・・・・友の弔い、かな」


どうやら、私の言った言葉を随分と忠実に受けてきたらしい。
墓も無い場所で弔いの言葉を口にするそいつに、私は小さく息を吐いた。


「貴方の望んだものは叶ったのかしら?」
「さて、どうなんだろうね。望まないものは簡単に叶ってしまうが、望むものは一切叶わない。
いつの間にか、そんな日々に慣れてしまったよ」


それは、ある意味当然の事なのかもしれない。
自分自身の心すら、不確かなものなのだから。


「月を追いかけていたかと思えば追いかけられ、決まって周りから消えてゆく。
こんな事は、望んでいなかったはずなんだがね」
「けれど、知っていた事でしょう?」
「・・・・・・ああ」


呟き、青年は喪に服す。
それは、愚かな事であった。

だが・・・・・・月の光を浴びるその銀の姿は、同時に何処までも美しかった。

小さく、笑む。


「行きなさい、雑種」
「・・・・・・」
「長い時を挟んだ暇潰しだったけれど・・・・・・中々、面白かったわ」


結果に出会い、過去を思い返す。
それだけでも、中々に面白いものだ。


「また縁があれば会いましょう」


それだけ口にし、私は踵を返した。
視界に映るのは、天に昇る真円の月。

くるくると。
くるくると。

月は形を変え、世界を照らす。
私達妖怪は、その姿を変える事も無く。

クルクルと。
狂々と。




















朝日の昇る前の太陽の畑。
私は何となく、あいつがいるような気がして外へ向かった。

薄明の時を、ただ一人。
月の無い薄明かりは、最も暗い時間だ。

そしてそいつは―――そんな中、私と初めて出会った場所に座っていた。


「こんばんは・・・・・・かしら?」
「こんばんは・・・・・・だろうかな」


そいつの声は、酷く沈んでいた。
あの時、傷付きながらも堂々と歩いていた男が、だ。
私はそいつを見下しながら、静かに目を細める。


「何の為にここに来たのかしら? あるいは、誰の為に?」
「いつもと違う受け答えをされると、どうにも調子が狂うな」


そいつは、小さく苦笑する。
その姿は―――初めて会った時と同じくらいに、小さく見えた。

そいつは、小さく、声を上げる。


「初めて・・・・・・人を殺したよ」
「ふぅん・・・・・・そんなに憎かったのかしら」
「いや、違う。むしろ、その逆だよ」


・・・・・・どうやら、随分と面倒な事情のようだ。
私は別に興味も無いし関係も無い。
けれど・・・・・・気に入っていたはずの男の弱い姿は、どうにも不愉快だった。


「何故こんな所で後悔しているのかしら」
「さてね。ここでなら答えが見つかると思ったんじゃないのかな」
「そう」


薄く、光が差し始める。
日の出まではもう直ぐ―――例えどうあろうと、世界は廻り続ける。


「生きる意味とは何か、幸せの在り方とは何か。生まれてから、ずっと求め続けた命題だ」
「・・・・・・・・・・・・」
「けれど、他者のそれを奪わなければならない理由は無かった。
また、分からなくなったよ・・・・・・生きる意味というものも、ね」


くるくると。
くるくると。

無様に舞い続ける道化人形のように。
己の手で今までの自分を崩してしまったそいつは、ただ虚ろに日の光を見つめていた。


「恨まれ呪われ、恨み呪い・・・・・・人の生なんてそんな物よ」
「だから、貴方はここで一人で?」
「さあね?」


クルクルと。
狂々と。

私もまた、同じなのだろう。
けれど―――


「生きてこそ、掴める物がある」
「・・・・・・」
「だから私は奪いましょう。例えそれが、己の否定だったとしても」
「その生き方は・・・・・・僕には難しいな」


そいつは、小さく苦笑する。
私は、小さく肩をすくめた。


「なら、また私に会いに来ればいいわ。それもまた、生きる理由になるでしょう?」
「・・・・・・成程、ね」
「まあ、来るのなら何か贈り物でも持って来るのね」


それだけ口にし、私は踵を返した。
視界に映るのは、昇りかけた朝日。

くるくると。
くるくると。

変わらず世界は廻るのだろう。
私達妖怪は、それでも―――


「―――貴方に会えて、良かったよ」


狂々と。
狂々と。
狂々と。




















夏が終わろうとする夕日の中。
私は再び、そいつの姿を見つけた。

あの日と同じ夕日の中、あの日と同じ場所で。
その手の中に何かを携えて、そいつは立っている。


「こんにちは」
「こんにちは」


あの日と同じ、その言葉。
違うのはそいつの姿と、その手の中にある物。


「貴方は、こんな所で何をしているのかしら?」
「・・・・・・こたえる為に、かな」


そう言って、そいつは手の中の物を差し出した。
それは―――


「あら・・・・・・日傘?」
「物を作るのが得意でね。贈り物をしろとの事だから、持って来たよ」


あの言葉を真に受けたのか、と嘆息しかけるが、花をかたどったデザインは中々に気に入った。
夕日の中にそれを広げ、私は小さく微笑む。


「答えは、得たのかしら?」
「さてね。けれど、貴方のおかげでとりあえずでも生きられる事は分かったよ」


そいつは、小さく笑う。
その身と同じく中途半端で、けれど確かに決意をしたその在り方。


「ゆっくり歩いて行くさ。いずれ、本当の答えを得るまで」
「・・・・・・そう」


夕日に染まるその姿は―――あの月の夜と同じく、確かに美しかった。
私は、笑う。


「出発地点にしたいなら勝手になさい。その時に、また会いましょう」


それだけ口にし、私は踵を返した。
視界に映るのは、沈みかけた夕日。

くるくると。
くるくると。

手の中の日傘は廻る。
私達妖怪は、ただ生きてゆく。

クルクルと。
狂々と。




















狂々と。
クルクルと。

夕日の中で日傘が廻る。
夕日の中で私は廻る。

そして―――ぴたりと、その動きを止めた。


「・・・・・・こんにちは、霖之助」
「ああ。こんにちは、幽香」


そして、世界は再び廻り始める。
狂った歯車にも気付かずに。

くるくると。
くるくると。










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コメントの投稿

非公開コメント

No title

そしてまた始まる…か。
ぜひとも見届けたいものです

No title

ども、サイモンディス。
霖之助さんの幼少期から現在までの間の変遷が面白いですね。永い時間の中を人の心で生きる存在って、難しいものです。
その間で、霖之助さんに会うたびに幽香さんの心がちょっとずつ変わるのも興味深いです。
この二人は今後どうなるのか、興味尽きないですー。

霖之助と幽香とは……意外な組み合わせでした。


個人的に幽香は特に好きなキャラなんで俺歓喜状態でしたwww



読んでいて思ったのですが、霖之助達が居たのは原作通りの幻想郷のように感じたんですが。
そして最後の会話部分………ひょっとしてストーリーに関わってきたりは…………ないか^^;
プロフィール

Allen

Author:Allen
動画を作ったりSS書いたりしてる創作生物です。
何か作ってないと生きていけません。

・リンクについて
リンクフリーですので、よろしければじゃんじゃんリンクして下さい。

・連絡先
《allenseaze17★livedoor.com》
★を@に。でもこのメールあんまり見ないので、コメントとか拍手の方が連絡はつくような気がします。

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